民に信無くんば立たず

たみしんくんば たず

たみに信頼がなければ政治はなりたたない。

民無信不立   (顔淵第十二 7)

【対話】

A (まことに当たり前の考え方だ。) 孔子の生きた封建制度の下では、 本来、 民の声は君主にとって考慮するに値しないもの。 ところで、 民から信を得られない君主はどうすべきだと言っているの?

B (論語にはこうある―)くんは君たれ、 しんは臣たれ は父たれ は子 たれ」 (顔淵第十二 11)。 決して、 革命を起こしていいとは言っていない。 どこまでも、 政治は個人の修身的生き方によるものという考え方だ。

【エピソード】

共和制ローマの時代、 貴族と平民間のくらしの格差が大きくなったため、 平民たちが、 山にこもってストライキを行なった (BC494年 聖山事件)。 これをきっかけとして、 平民のくらしを守る護民官が設置された。 ここで、 「元老院 (S) とローマ市民 (PQR)」 の名で (Senatus Populusque R-omanus)、 契約が成立した。 以後SPQRはローマ市章となる。

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死生命あり富貴天にあり

死生しせいめいあり 富貴ふうきてんにあり

(人生の結果は運命にまかせておけ) 大切なのは生き方だ。

死生有命、 富貴在天   (顔淵第十二 5)

【対話】

A 論語には珍しい運命論だなあ。

B (いや、 単なる運命論ではない。) 我欲を放棄したうえで、 生きている間に徹頭徹尾努力するよう求めているのだ。
 「世の人は我を何とも言わば言え 我が成すことは我のみぞ知る」
(坂本竜馬 十六歳、 高知城下、 日根野道場で剣術修業する身ではあるが、 すでに臥龍がりゅう片鱗へんりんをうかがわせている)

【エピソード】

「人間の偉大さを言いあらわすためのわたしの慣用の言葉は運命愛 (amor fati) である。 何ごとも、 それがいまあるあり方とは違ったあり方であれと思わぬこと。 未来に対しても、 過去に対しても、 永遠全体にわたってけっして。 必然的なことを耐え忍ぶだけではない、 それを隠蔽もしないのだ、 …あらゆる理想主義は、 必然的なことを隠し立てしている虚偽だ…、 そうでなくて必然的なことを愛すること」
「この人を見よ」  ニーチェ 1908年 (手塚富雄訳・岩波文庫)
―――運命愛は、 単なる運命論ではない。 運命に向かって堂々と歩んでいく、 必然を必然として受け止める不屈の魂であり、 守るべきを守る不動の信念であり、 打ち立てるべきを打ち立てる気魄である。

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仁をなすこと己に由る

じんをなすことおのれ

人として恥ずかしくない生き方は、 他でもない、自分自身の決意によるのだ。

為仁由己   (顔淵第十二 1)

【対話】

A (しかし、) ひとりよがりになってはいけない。 かつて 「タイガーマスク現象」 (弱者への寄付ブーム)が起こったが、 寄付の目的をより効果的にするには、 人知れず一方的に寄付するより、 寄付内容について行政機関等と相談すればもっといいと思うが。

B (いや、 物の始めはひとりよがりでいいのだ。) それ自体が崇高な行為について、 別の次元から注文をつけるのはよそう。 この句はさらに 「しかして人に由る」 と続く。 そういうことは人に任せればよいのだ。
雀子すずめごひざめしつぶつませけり」     (小林一茶)

【エピソード】

「道は天地自然の物にして、 人は之を行ふものなれば、 天を敬するを目的とす。 天は人も我も同一に愛し給ふゆゑ、 我を愛する心を以て人を愛する也。
人を相手とせず、 天を相手とせよ。 天を相手にして、 己を尽くして人を咎めず、 我が誠の足らざるを尋ぬべし。」
「西郷南洲遺訓」   西郷隆盛 明治十年
まことに大西郷の精神はこの語にきわまる。 行動の動機も結果責任もすべて自分に発し、 自分に帰する。 仁を以て行動原理とし、 あとは粛々淡々と生きるのみ。 英傑、 惜しいかな西南に没す。

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君子は坦かに蕩蕩たり

君子くんしは たいらかに蕩蕩とうとうたり

りっぱな人はゆっくりと落ち着いている。

君子坦蕩蕩   (述而第七 36)

【対話】

A 泰然たいぜん自じ若じゃくとしていること  これは決して風貌ふうぼうのことだけではない。 その心の内のことを言っている。

B (確かにそうだ。) 荘子そうじ」 の徳充符とくじゅうふ篇に 『明鏡止水めいきょうしすい』 のいわれがある―孔子の弟子の常季じょうきが、 王駘おうたいを師とするライバル塾の繁盛はんじょうぶりのことで孔子にたずねたところ、 孔子は 「水を鏡がわりに見るときは、 流水りゅうすいではなく止水しすいでなければならない。 王駘の心は止水であるからだ。 それゆえに人を引きつけているのだ」 と答えたという。

【エピソード】

「兵法の道において、 心の持ちやうは、 常の心に替る事なかれ。 常にも、 兵法の時にも、 少しもかはらずして、 心を広く直にして、 きつくひつぱらず、 少しもたるまず、 心のかたよらぬやうに、 心をまん中におきて、 心を静かにゆるがせて、 其ゆるぎのせつなも、 ゆるぎやまぬやうに、 能々吟味すべし。」
「五輪書」 (水之巻) 宮本武蔵 正保二年 (1645)

 

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難いかな恒あること

かたいかなつねあること

むずかしいのは、 ぶれない信念しんねんをもつこと。

難乎有恒矣   (述而第七 25)

【対話】

A 信念を持ち続けるのは、 しんどいことなのか?

B (いいや、) 肩ひじを張って、 やせ我慢しなければ出来ないものではない。
気持ち一つでなれることだ。 東日本大震災では、 ボランティアが自然に集まり互いに励ましあった。 略奪なんかは一件も起こっていない。 他の国では、 先進国でさえ、 そういう場合、 えてして略奪が起こる。 これは日本人が、 固い決意として持っている信念というよりも、 それ以前の、 この風土と社会の中で築きあげてきた良心といってもいい。 これを大事にしさえすればいい。 そういう意味では決して難しいことではない。

【エピソード】

徳川幕府最後の勘定奉行、 小栗おぐり忠順ただまさは、 開国後の国家経営、 特に国益に沿うよう経済を運営するにはどういう制度が必要かを、 ずっと考え続けた。 条約批准書の交換のために米国を訪れたときは、 通貨交換比率の不整合な取り扱い事実をそろばん片手に指摘したり、 外債発行に奔走したり、 横浜造船所の建設やそれを稼動させるための経営システムを導入したり、 また商社の設立、 ホテルの建設等をすすめたりと、 その後の明治日本の経済体制の図面を描いた。
小栗忠順には、 国益とはすなわち国民益、 小を糾合きゅうごうして大を為すの信念があった。 惜しいかな、 慶応四年、 新政府軍に捕えられ、 従容しょうようとして落命。
まことに時代の先を読む人物だった。

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怪力乱神を語らず

怪力かいりき乱神らんしんかたらず

人の身の丈を超えることを言ってはいけない。

不語怪力乱神   (述而第七 20)

【対話】

A (それなら、) 現時点で根拠がないのなら、 夢や希望も言えないことになるのでは?

B (そういうことではない。) 孔子は現実の政治を見ており、 その前提の上で国を秩序立ったものにしたいと望んでいた。 夢や希望だと単に現実の裏返しを願っているだけでは、 怪力乱神を語るのと大差はない。 当てにならないことを持ち出しても無意味だ。 現実は片時もやすまず黄河の流れのように目の前を過ぎていく※。 現実を見て現実を語れと言っているのだ。
※子、 川上にりていわく、 「くものはかくのごときか、 昼夜ちゅうやかず」 (子罕第九 17)

【エピソード】

英国十六世紀の王、 ヘンリー8世の臣トーマス・モアは、 非現実なキャラクターや荒唐無稽こうとうむけいな土地を登場させて、 「ユートピア」 という書物を書いた。
しかし、 これはただ単に、 空想物語として書いたものではない。 「怪力乱神」 を登場させてはいるが、 本当のねらいは現実の猛烈な批判だった。 現実の農村で起こっているのは、 一部の金持ちが、 牧羊のために土地を囲い込み、 他の農民を排除している実態だ (羊が人を食う)。 非現実なことを非現実なままに語るのは、 論語も言うように意味がない。 目的や動機を明確にしめすことが大事。

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