鶏を割くにいずくんぞ牛刀を用いん

鶏をくに いずくんぞ牛刀ぎゅうとうもちいん

小さなことを処理するのに、 大げさな方法をとる必要はない。

割鶏焉用牛刀   (陽貨第十七 4)

【対話】

A 大げさな方法であっても、 事の処理が出来る場合はまだよい。 問題は、 その手段が目的に合っていないとき、 かえってそれが有害となることもある。

B (確かに、) 目の前の切迫した事情にきゅうするあまり、 本当の解決法を見失うことがある。 幕末、 備中松山藩の家老山田方谷は、 この点を喝破かっぱし見事に藩財政を立て直した。 幕府の老中首座をも務める藩主板倉勝静いたくらかつきよを補佐し、 日本全体の時局をも見ながら、 いよいよ幕府の命脈が尽きるのも見通した。
すべては、 長期見通しを立てるとともに、 目的と手段の整合をはかることが大切と説く。――― 「それ天下の事を制する者は、 事の外に立ちて事の内には屈せず。 しかるにいまの理財者はことごとく財の内にくっす。 —-而して財用の一途、 独り目下のわずらひなり。 —-義理を明らかにしてもって人心を正し、 撫字ぶじ※を務めて民物をせん※し、 古道をとうとび以て文教をおこし—-財用の途もまた従って通ず」 「理財論」 (天保七年)
※意味  撫字-育てること 贍-充分に与えること

【エピソード】

「孟子」 に、 ある男が、 植えた苗をもっと早く生育させようと引っ張ったところ、 苗は枯れてしまった話がある。 孟子もう し 公孫丑章句は、 「浩然こうぜんの気き」 を養うには、 これを助長してはいけないと説いている。 浩然の気とは 「至大至剛しだいしごうにしてなおく、 養ってそこなうことなければ、 すなわち、 天地の間に満つ」 と説明されている。
高潔こうけつな人格を、 さらに高めたいとするときに、 これを助長 (無理に促してだめにしたり、 目的と手段を取りちがえたり) してはいけない。

カテゴリ:論語解説

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