小過を赦し賢才をあげよ
小過を赦し 賢才をあげよ
小さなまちがいにこだわらず、 才能ある人を引き立てよう。
赦小過、 挙賢才 (子路第十三 2)
【対話】
A 少々の不都合にも寛容を示し、 なじみのないものでも受け容れることは、 度量の広い人間にしてはじめて可能なことだ。
B (ところで、) 「小過」 や 「賢才」 というと、 硬直した組織を連想する。 しかし、 句意を組織論だけでなく、 はつらつとした人間の精神論にまで広げて読み直してみたい。“偏見を捨て、 垣根を越えよ”といったテーマになろう。 「ヘルマンとドロテーア」 (ゲーテ) で、 戦争難民のドロテーアは、 避難先の村で、 清らかで控えめに振舞いながらも、 周囲に白眼視される。 しかし、 その健気な姿はやがて周囲の偏見を溶かし、 やがて村長の息子ヘルマンから求婚される。 度量の大きい人間像に清々しい息吹を感じる。
【エピソード】
かつて典医をしていた父が罪を得て江戸追放となったことで、 子の荻生徂徠もいっしょに十三年間、 上総茂原で生活をする。 その後ゆるされて、 徂徠は江戸にもどり、 芝で塾を開いたが貧乏ぐらし。 近所の豆腐屋から豆腐をもらって何とか食いつなぐ生活 (講談 「徂徠豆腐」 でおなじみ)。 しかし、 徂徠のなみはずれた才能を見た芝、 増上寺の僧正が、 徂徠を幕府に推挙した。 徂徠の思想には、 主流の朱子学に対する徹底した批判精神があり、 のち五代将軍綱吉の政治顧問となっても、 権勢におもねらない態度をつらぬいた。 もちろん、 十三年の田舎暮らしで経験したつつましい生活ぶりや、 豆腐屋への恩も生涯忘れなかった。
カテゴリ:論語解説
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2016年6月14日